太陽の4倍以下の質量の恒星が燃えつきると白色矮星になります。白色矮星は、太陽ほどの質量を持っているにもかかわらず、大きさが地球程度しかない非常に高密度の星です。激変星は、このような白色矮星と普通の恒星がお互いの回りを回る連星系で、二つの星の距離が近いために、恒星の表層がはぎ取られて絶えず白色矮星に落下しています。可視光やX線などの電磁波は、落下する時にガスが得る重力エネルギーを使って放射されます。その名の通り、電磁波の強さは激しい変動を示します。
激変星のうち、白色矮星が百テスラ以上の磁場をもつものは強磁場激変星と呼ばれています。強磁場激変星は、白色矮星の磁場の強さによって、図1のように、さらにAM Her型星とDQ Her型星に細分類されます。AM Her型星は白色矮星の磁場が千〜十万テスラと特に強く、相手の恒星(以下では伴星と呼びます)からはぎ取られたガスが直接白色矮星の磁極へと落ちていきます。一方DQ Her型星では、磁場が 百〜千テスラ程度とやや弱いため、ガスは降着円板の中を旋回し、白色矮星の比較的近くまで行ってから磁極へと落ちていくと考えられています。
さて、磁極に落ちこんでいくガスはどうなるのでしょうか。白色矮星の表面付近に達したガスは、光速の2%(秒速3000 km)にも達する速さの超音速流(降着流)になっています。このため白色矮星表面から 100 kmほどの所で衝撃波が発生し(白色矮星の半径はおよそ1万km)、ここで温度10億度の高温となります。その後はX線を放出して冷えながら白色矮星の表面に軟着陸すると考えられています。「あすか」がとらえているのはこのX線です。
図2に「あすか」が観測した「うみへび座EX星」のX線スペクトルを示します。連続X線の上につき出た構造は、鉄などの宇宙に豊富に存在する元素からの特性X線です。ところで、衝撃波でのガスの温度(約10億度)は、白色矮星の重力の強さ、つまり質量に比例して高くなります。鉄からネオンまでの特性X線は、衝撃波で熱せられたガスが冷えていく過程で放出されるので、これらの特性X線の様子を詳しく調べることによって、衝撃波でのガスの温度を知ることができ、結果として白色矮星の質量を求めることができます。「あすか」のデータを解析した結果、「うみへび座EX星」、「うお座AO星」、「はくちょう座 V1223星」にある白色矮星の質量が、それぞれ太陽の48%、40%、82%以上と測定されました。このうち「うみへび座EX星」の結果は、他の波長での観測結果とよく一致しています。この結果により、白色矮星の質量を求める新たな手法が打ち立てられました。
前節でも述べた通り、降着流の中に発生する衝撃波の高さは白色矮星の半径のせいぜい5%以下しかありません。X線は白色矮星表面のごく近くだけから放射されていることになります。このような場合、高温ガスから放射されたX線のうちの約半分は白色矮星表面に向かい、かなりの割合で反射されるので、当然観測されるはずです。しかし、これまでのX線観測では反射X線の決定的な証拠を得るには至っていませんでした。
図2に示した通り「あすか」は特性X線を非常に高い精度で検出する能力を持っています。そこで私たちは、反射X線スペクトルに含まれると予想される冷たい鉄からの特性X線(6.4キロ電子ボルト)の強さを、20個以上の強磁場激変星について測定しました。このデータを、別に測定された降着流の中のガスの量に対して書き込んで行くと図3のような結果が得られます。反射は衝撃波を通過する前の冷たい降着流の中でも生じます。そこで、この図の上に、降着流のガスだけを考えた場合(図中の「反射なしモデル」)と、これに白色矮星表面での反射を加えた場合(図中の「反射ありモデル」)から予想される曲線をそれぞれ書き込んでみます。結果は一目瞭然で、特に、降着流の中のガスの量が少ない場合には、鉄の特性X線の大部分は白色矮星表面から反射されたものであることが初めてはっきりと示されました。このことは、X線の連続スペクトルを調べる際にも白色矮星からの反射を正しく考慮に入れなければならないことを示しています。
特性X線は、それぞれの元素から四方八方にまんべんなく放射され、特別な方向に強く放射されるということはありません。ところが、降着流の中のようにガスが濃いところでは、特性X線が磁力線の方向に強く放射される、つまりビームになるという性質があります。前にも述べましたが、降着流の中に生じる衝撃波の高さは非常に低いため、X線を放射する領域は、白色矮星の表面に置かれたコインのように薄っぺらい形をしていると考えられています。コイン型の領域に閉じ込められたガスは非常に濃いため、中を見通すことはできません(このことは、太陽がガスの寄せ集めであるにもかかわらず、ガスが非常に濃いために、中を見通すことができないということを考えれば理解できるでしょう)。この場合、コインの明るさは、コインを見込む面積が最大になる磁極方向から見た場合に最も明るく、磁極に垂直方向から見た場合に最も暗くなることになります。これを「幾何学的ビーミング」と呼びます。
これに加えて、降着流の中でガスの速さが次第に遅くなるために生じる「速度勾配ビーミング」の効果が加わります。ある元素からの特性X線は、同じ元素に出会うと吸収再放出され、この時に進む方向が変わります(共鳴散乱)。このように共鳴散乱はX線が直進するのを妨げる効果を持ちます。ところで、特性X線は振動数(=エネルギーに比例)が非常にはっきりと決まっているため、放射した元素と、受け取る元素の間に僅かでも速度の差があると、ドップラー効果のために共鳴散乱されなくなります。降着流の中では、速度の違いは磁極方向のみに存在すると考えられますから、特性X線は磁極方向に進むと散乱されにくい、つまり、この方向に進みやすいということになります。 強磁場激変星を白色矮星の磁極方向から観測する場合、この2つのビーミング効果によって、鉄の特性X線は2〜3倍もの強度に増幅されます。実際にそのようなことが起こっている例として、図4にAX J1842.8--0423という天体のX線スペクトルを示します。
図4:AX J1842.8-0423のX線スペクトル。図2の「うみへび座EX星」に比べて、鉄の特性X線が非常に強いことがわかるでしょう。このような天体は「あすか」の観測で他に2つほど発見されています。
以上のように「あすか」は特性X線に対する高い感度で強磁場激変星のX線研究に新展開をもたらしました。Astro-E2衛星にはこれをはるかに凌ぐ感度を持つX線分光器(XRS)が搭載されます。XRSによって、強磁場激変星の研究が更に進展することが期待されます。
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