重い星が一生を終えるときに起こす大爆発を「超新星(爆発)」といいます。その超新星が1993年3月に、私たちの銀河系の近くにあるおおぐま座の M81銀河で発生しました。この超新星は現代天文学が発達してから2番めという近距離で起きたもので、超新星爆発の初期段階を観測的に解明するための大変貴重な観測対象となりました。その名をSN 1993Jといいます。超新星SN 1993J は折しも、X線天文衛星「あすか」の打ち上げ約1か月後という、絶妙なタイミングで起きたもので、「あすか」は急遽その観測に向かいました。
超新星爆発によって吹き飛ばされた物質が星の周辺にあった物質にぶつかると、衝撃波が生じてこれらの物質は10億度にまで加熱され、X線やガンマ線が放射されます。このため、X線観測によって爆発直後の様子を直接調べることができるのです。
図1は、「あすか」が撮影したM81銀河の中心付近のX線写真で、左が爆発19日後、右が210日後に撮ったものです。これらの写真から、爆発19日目には超新星SN 1993JがX線で明るく輝いているのに対して、210日後には暗くなっていることがわかります。私たちは「あすか」で取得したデータを詳細に分析し、観測史上初めて、超新星のX線スペクトルの変化を爆発直後から広い帯域で追うことに成功しました。
図1:「あすか」が撮影したM81銀河の中心付近のX線写真。左は超新星爆発の19日後、右は210日後。超新星の上に見えるのはM81銀河の中心核、下に見えるのはX6と呼ばれる別のX線天体。なお、それぞれの天体が十字印のように見えるのは「あすか」のX線望遠鏡によるもので、実際にそういう形をしているわけではありません。
図2は波長の長いX線(軟X線、白丸)と波長の短いX線(硬X線、黒丸)の光度曲線です。図から、最初のうちは軟X線があまり暗くなっていないことがわかります。なぜこのような変化が起きたのでしょうか。
図2:超新星SN 1993JのX線光度曲線。横軸は爆発からの日数、縦軸はX線強度。白丸は軟X線バンド(0.5〜2キロ電子ボルト)、黒丸は硬X線バンド(2〜8キロ電子ボルト)のデータ。点線と実線は二重衝撃波モデルによる理論的な曲線で、観測データをよく再現できていることがわかります。
さらに詳しい解析を行った結果、このようなX線光度の変化は、衝撃波が二つ見えているために起きていることがわかってきました。つまり、吹き飛ばされた物質と星の周辺の物質との間にできた衝撃波と、そこに後からやってきた放出物質が追突してできた衝撃波という二つの衝撃波が見えていて、それぞれの明るさの変化が異なっているのです。二重衝撃波は理論的には古くから提唱されていましたが、爆発初期の超新星でこれが時間変化とともに観測的に検証されたのはもちろん初めてのことです。
「あすか」による観測からは、星間空間の物質の密度、衝撃波内に閉じ込められた冷たい物質の量なども求められました。超新星の放出物質の密度を観測的に求めたのもこれが初めてのことです。さらには、超新星爆発による物質とエネルギーの星間空間への還元などの研究にも重要な示唆を与えるものとなりました。超新星SN 1993Jは、「あすか」の前途を祝して宇宙が私たちに贈ってくれたプレゼントだったのかもしれません。
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