太陽をはじめとする恒星は、その内部で核融合反応を起こして輝いています。この核融合反応は、水素をヘリウムに変え、さらに炭素、窒素、酸素、珪素(シリコン)や鉄などを作ります。太陽の場合、核融合反応はその中心部分で起こっているので、どんなものが作られているかは直接は知りようがありません。しかし、その時発生した熱が星全体を高温にして、明るく輝き、地球にエネルギーを降り注いでいます。
さて、星はいつまでも輝くことはできません。核融合の燃料となる物質がなくなると、輝きもおしまいになり、星は潰れてしまいます。この時、ある星は大爆発を起こします。この爆発が超新星爆発と呼ばれています。超新星爆発の時にはさらに核融合反応が進み、炭素や珪素や鉄などいろいろな元素が作られ、それらが周辺に飛び散ることになります。もともと、宇宙ができた時には水素とヘリウムしかなかったのですが、超新星爆発によっていろいろな物質が宇宙に散らばるようになりました。地球上にある各種物質は、その昔の超新星爆発の破片と言うことができます。つまり、水素やヘリウム以外の物質ですから、地球上にあるほぼすべてのものは超新星爆発のおかげということになります。
超新星爆発が起こると昼間でも見えるくらいの明るさになるので、歴史上も幾つか記録されています。特に、中国や日本の古文書には多く記録されています。爆発後、一年ほどは肉眼でも見えるでしょうが、やがて見えなくなります。しかし、爆風は星の周辺に広がっており、数百万度から数千万度という高温ガスとなります。この高温ガスは肉眼では見えませんが、何万年もの期間、X線で輝き続けます。つまり、昔の超新星爆発の痕跡はX線で詳しく調べることができます。
はくちょう座の網状星雲といえば、可視光でよく知られた星雲で、カーテンのベールが幾つもちぎれたように見えます。これは、二万年ほど前に起こった超新星爆発の残骸で、見かけの大きさは満月の6倍もあり「はくちょう座ループ」と呼ばれています。図1に示すように、X線では爆風がきれいに球状に広がった様がよくわかります。これは、典型的な超新星残骸で、「あすか」でも全体を詳しく観測しました。
図1:「あすか」で取得したはくちょう座ループのX線モザイク写真。白、橙、赤、緑の順にX線が強いことを示しています。
これまでは、二万年も経過すると、爆発で飛び出たに違いない物質はすっかり薄められ、跡形もなくなっていると思われていました。ところが、「あすか」で調べてみると決してそうではないことがわかってきました。はくちょう座ループは典型的な爆風の広がる様子を表しているのですが、その内部は決してガランドウではなく、いろいろな物質が残っているのです。特に、珪素や硫黄が大変多いことがわかりました。これは、超新星爆発を起こした星が、爆発する前に核融合反応で作った元素の一例でした。つまり、太陽などの星の中心部で起こっている核融合反応でできた物質を直接観測したもので、まさに星の化石と言えるでしょう。
図2は、この化石がどんなふうに散らばっているかを示しています。図1のX線の明るさは等高線で、珪素の多い領域には色を付けて示してあります。化石ははくちょう座ループの中心から南(図では下の方)に集中的に広がっているのがわかりました。この化石を詳しく調べると、元の星がどんなものであったかも判ります。はくちょう座ループは、太陽の20倍以上もある重い星が、太陽から2000光年ほど離れたところで、2万年ほど前に爆発したものです。
図2:はくちょう座ループ内の硅素の分布(カラー)。緑色のところが、特に硅素がたくさん存在しているところです。等高線は図1のX線の強度分布を示しています。
太陽の20倍もの重い星が超新星爆発を起こすと、その後には中性子星とかブラックホールとかの高密度星が残されます。果たして、はくちょう座ループを作った星は高密度星を作ったでしょうか、また作ったとすればどこに行ったでしょうか。
高密度星の物質は、スプーン一杯で何トンとか、とにかくとてつもなく重いものです。つまり、普通の星とはちょっと違うので、可視光ではなかなかわかりません。いろいろな方法で確認する必要がありますが、まずはX線です。はくちょう座ループの南の隅に「あすか」がX線星を見つけました。図2では、南に延びた化石の先端(図の一番下の中心よりやや右側)に見えています。爆発したのは中心部分でしょうから、爆発後、ここまで飛び出たのでしょう。その時、化石を引きずって来たようにも見えます。これが、超新星爆発の時にできた高密度星かどうかはまだ確認できているわけではありませんが、そうだとすれば、爆発中心からずいぶん遠いところまで吹き飛ばされたことになります。
はくちょう座ループの内部を調べると、複雑な構造が見えています。決して一様な明るさではなく、いろいろと塊のようにも見えるでしょう。化石の塊もあれば、もともと宇宙空間にあったものが掃き清められて塊になったものもあることがわかってきました。このように、星の化石なのか、掃き清められて塊になったものかは「あすか」によって初めて区別できるようになりました。
超新星爆発を起こしたあとも、元の星の破片が完全に潰れてしまうことなく長期間残っていることは他の例でも知られています。ほ座超新星残骸は、日本からは見えませんが、はくちょう座ループと同じくらいの古い超新星爆発の痕です。ほぼ中心にはパルサー(高密度星)が残っているので有名です。この周辺には、化石と言っても珪素の塊とでも言うべきものを見つけました。図3に示しますが、珪素の塊が図の右の方から吹き飛んで来たものです。
図3:ほ座超新星残骸で発見された元の星の破片。明るい部分には珪素たくさん存在しています。超新星残骸の中心はこの写真よりも右側にあって、硅素がここまで吹き飛んできたと考えられます。図の一辺はおよそ7.5光年に対応しています。なお、写真の左の方にある一番明るい天体は、超新星残骸とは関係のない星です。
若い超新星残骸の場合には、当然、元の星の破片があるでしょうし、実際いろいろな方法で観測されています。しかし、かなり時間が経過し、周辺の星間物質とすっかり混ざっているのではないかと思えるくらい年取った超新星残骸中にも、依然として周囲に融けこまない元の星の残骸---まさに星の化石と呼べるでしょう---のあることが「あすか」の観測でわかってきました。
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