私たちの住む銀河系(天の川銀河)は、およそ千億の星々から構成されており、そのうちの多くの星がさまざまなかたちでX線を放射していることは、よく知られています。しかし、実は天の川銀河それ自体も、銀河系のほぼ全体に薄く広がった、超高温の電離ガス(プラズマ)を含み、そこからX線を放射しているのです。このうち、銀河面に沿って非常に薄く広がった成分を銀河リッジ成分と呼びます。また、銀河系の真ん中にある回転楕円体、いわゆる銀河バルジにも似たような高温プラズマがあることがわかっています。
「あすか」は、これら銀河リッジ成分と銀河バルジに存在する高温プラズマの特性を詳しく調査しました。図1に赤い丸で示したのが、「あすか」が観測した天の川銀河の領域です。また図2に、観測から得られたX線画像の一部(たて座付近)を示します。これらのデータから、次のようなことが明らかになりました。
図1:「あすか」が観測を行った天の川銀河の領域(銀経45度以内)。背景のグレースケールは、ヨーロッパのローサット衛星によって得られたX線の全天マップです。
図2:「あすか」が取得した、銀河面から銀緯方向に5度までの領域のX線画像。エネルギーの低いX線(左側)と、高いX線(右側)で描いていて、それぞれ低温と高温のプラズマの空間分布を表していると考えられます。
まず、銀河リッジ、銀河バルジ成分とも、単一の温度の高温プラズマだけを含むのではなく、少なくとも2つの異なる温度のプラズマを持っていること。その温度は、低温の成分で6〜800万度くらい、高温側は4〜9千万度にもなります。銀河リッジ成分が低温の成分も含むことは、「あすか」によってはじめて明らかになったことです。また、さらに詳しい解析を進めた結果、高温成分よりもさらに高いエネルギーまでX線放射が延びているようであることも明らかになりました。この第3の成分の放射は、そのままガンマ線まで延びているのではないかと考えられています。
次に、この2つの温度のプラズマが、それぞれ銀河面に沿ってどのように分布しているかを調べました。その結果、二つの成分とも銀経方向にはその性質があまり変化しないということが分かりました。つまり、天の川銀河の非常に広い範囲に渡って、同じようなプラズマがほぼ一様に広がっているというわけです。一方、銀河面に垂直な銀緯方向については、二つの温度とも明るさがすぐに減衰するのですが、銀河バルジの外側ではその弱くなりかたが非常に早いのに対して、銀河バルジの内側では、よりゆっくりと弱くなっていくということも、はじめて明らかになりました。
では、これらのプラズマは、いったいどこでどのようにして加熱されているのでしょうか?その起源として、銀河リッジの低温成分については超新星残骸が最大の候補となりえます。超新星爆発時のショックで加熱された星間物質が、その後ゆっくりと広がりつつ、温度を下げていった結果の重ね合わせだという解釈です。一方、高温成分については、その起源の候補となりえるような天体現象は現在までに知られていません。1億度にも迫る超高温プラズマは、銀河系の重力ではとても引き留めておけず、何らかのメカニズムで継続的に供給してやらなければならないのですが、それには膨大なエネルギーが必要となるのです。さらに、銀河バルジにも類似の高温プラズマが存在するということが、解釈をますます困難にしています。もしかしたら、私たちの銀河系そのものが、その膨大な回転エネルギーを一部放出したということで説明できるのかもしれません。
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