夜空に白い帯のように星が連なって見える天の川。これは私たちの銀河系を円盤部分に位置する地球から眺めた姿です。私たちの銀河系にあるたくさんの天体のうち、X線を放射しているのはどの天体でしょうか。また、それはどんな特徴をもっているのでしょうか。これらを調べるために、私たちは「あすか」を使って天の川の探査(サーベイ観測)を行いました。地球の位置から銀河系全体を観測するとき、銀河系の中にあるガスや塵が邪魔となって、遠くの天体を見ることが難しくなりますが、「あすか」はこのようなガスや塵の影響を受けにくい波長の短いX線にも感度をもつため、銀河系を見透して観測することができます。「あすか」の感度をもってすれば、私たちが気づかなかった天体の新しい姿をみることができるに違いありません。
内側から眺めた銀河系は、空の広い範囲にわたります。「あすか」はその中の一部分、コンパス座のあたりから天の川に沿って銀河系の中心の方向にあたるいて座を通り、わし座のあたりまでを観測しました。下図に観測で得られた画像の一部(さそり座のあたり)を示します。明るいもの、暗いもの、点源ではなく大きく広がった構造をもつものなどが見えています。検出した天体の数は、観測した領域全体で約200個でした。この中には恒星、周期的に強度が変動するX線パルサー、X線放射が見つかっていなかった超新星残骸、SN 1006(1006年の超新星)と同じようにほとんど特性X線が見られないX線シェル構造をもつ超新星残骸など、様々な種類の天体があります。今、これらの特徴を調べる研究が進められています。
検出した天体のうちの約3分の2は「あすか」で初めて発見された新天体です。この中には、高いエネルギーのX線(波長の短いX線)の割合が多いX線スペクトルをもつ天体が数多く含まれていて、これらは遠方に位置するなどのため、銀河系の中のガスや塵の影響を強く受けたものと考えられます。また、大きく広がった構造をもち、超新星残骸の候補天体と考えられるものもあります。今後、X線を含む様々な波長の観測によって、これらがどのような種類の天体であるのかが明らかにされていくでしょう。
天の川のサーベイ観測は、天体の探査を通してもうひとつ重要な結果をもたらしました。私たちの銀河系には、点源に分解することのできない広がったX線放射が天の川に沿って存在していて、これが数千万度の温度をもつ高温ガスからの放射であることがわかっています(『銀河リッジ・バルジ成分』参照)。この高温ガスがどのようにしてつくられたのかを探るには、まず、暗い点源がたくさんあるために広がった放射としてみえているのか、それとも本当に広がった高温ガスであるのか、を明らかにしなくてはなりません。サーベイ観測で検出した点源の明るさごとの数分布と画像解析の結果から、点源からのX線は高温ガス成分として見えていたものの一部分にしかすぎず、大部分は広がった放射であることがわかったのです。すなわち、天の川に沿って本当に拡がった高温のガスが存在しているという可能性が高くなってきたというわけです。それでは、このような高温のガスはどのようにしてつくられたのでしょうか。起源の解明にむけて、観測と理論の両面からのアプローチが重要となっています。
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