私たちの住む銀河系から16万・20万光年離れたところに、大・小マゼラン星雲という小さな銀河が存在します。銀河系自身の大きさが直径10万光年ですから、本当に「すぐそこ」にいる、いわば私たちの「お隣さん」なのです。残念ながら日本からは見えませんが、オーストラリアなど南半球では、夜空にまるで雲のように広がってぼんやりと輝く両マゼラン星雲を見ることができます。
私たちは「あすか」を用いて、小マゼラン星雲全域を観測しました。図1は、高エネルギーX線(硬X線)を青、低エネルギーX線(軟X線)を赤で表した「X線カラー写真」です。多くの青い天体と、少数の赤い天体が存在しています。私たちは、明るく青い天体がすべて、灯台のように周期的にまたたいていることを発見しました。これらは中性子星と重い恒星のペア(連星)で、「X線連星パルサー」と呼ばれます。外国の人工衛星を用いた研究グループの成果も合わせると、ここ数年は「パルサーラッシュ」とでも呼ぶべき爆発的発見が続いており、今や総数は20個以上です(図2)。
図1:「あすか」で取得した小マゼラン星雲のX線カラー写真。赤で低エネルギーX線、青で高エネルギーX線を示しています(非常に明るい部分は白く見える)。写真の縦が角度にして3度、距離1万光年に相当します。
一方、私たちの銀河系は小マゼラン星雲より100倍も大きい銀河であるにもかかわらず、X線連星パルサーはわずか60個弱しか見つかっていません。なぜ小マゼラン星雲にはこんなにもX線連星パルサーが多いのでしょうか?
太陽の約10倍重い恒星は、誕生から1000万年ほど経つと超新星爆発を起こし、中性子星を残します。このとき別の重い恒星と連星になっていれば、X線連星パルサーとなります。したがって、「あすか」が発見した多数のX線連星パルサーは、小マゼラン星雲で1000万年前に爆発的に星が誕生した…つまり「星のベビーブーム」があったことの証拠なのです。
大・小マゼラン星雲と銀河系は100億年の昔から、重力を及ぼし合って互いの周りを複雑に動き回っています。衝突寸前のニアミスも何度か経験したでしょう。その際、小柄な小マゼラン星雲が最も大きな影響を受けます。恐らくこの時、星の原料たるガスが激しく圧縮されたことで、1000万年前のベビーブームが引き起こされたのでしょう。
こう考えてみると、「あすか」がとらえた青い星々のまたたきは、大物銀河たちに翻弄される小マゼラン星雲からのSOS信号なのかも…という気もしてきますね。助けてはあげられませんけど。
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