1916年カール・シュバルツシルトは、アインシュタインの一般相対性理論から重力場を記述する最初の解を見つけました。それは、質量をもつ「もの」の大きさをどんどん小さくして、ある大きさ以下にすると、そこからは光さえも出ることができなくなるということを予言するもので、ブラックホールという概念の誕生でした。この「ある大きさ」は、発見者の名前にちなんで「シュバルツシルト半径」とよばれています。たとえば、太陽なら半径を3 kmに、地球なら1 cmにまで縮めるとブラックホールになります。もちろん、実際には太陽や地球がそんなに縮んでブラックホールになることはありません。それではブラックホールはどのようにしてできるのでしょうか?
第1章でも触れましたが、太陽のような恒星は、星の内部の水素を燃料にして輝きを保っています。燃料を使い果たすと星は死をむかえます。このとき、太陽程度の質量の星は白色矮星になります。太陽のおおよそ8倍から30倍の質量の星になると、最後に大爆発を起こし(超新星爆発)、星を形作っていた鉄の中心核が強い重力でつぶれて中性子の塊の星---中性子星---になります。中性子星は半径が10 km程度しかないのに太陽と同じくらい質量が大きな、とても密度の高い星---角砂糖一つ分の大きさで7億トンにもなります---です。では、もっと質量の大きい星ではどうなるのでしょうか。太陽より30倍以上質量の大きい星が寿命を終える時、重力はさらに強く、中性子でさえつぶれてしまいます。そうなると、もう縮むのを押しとどめる力はありません。どんどん縮んでついにブラックホールができるのです。
このようにしてできたブラックホールの存在を、観測で確かめることはできるのでしょうか。ブラックホールからは光さえ出てくることができないのですから、基本的にはブラックホールを直接見ることはできません。ところが、ブラックホールにものが落ち込むと、その強力な重力によってX線が出てくることがあります。したがって、X線を観測することによって、ブラックホールを見わけることが可能になります。実際、ブラックホールの観測的な研究は、20世紀後半のX線天文学の登場によって花開いたのです。現在では、ブラックホールが私たちの宇宙に実際に存在することは疑いのないものとなっています。
これまでに存在が知られているブラックホールは大きく2種類に分けられます。一つは、最初にお話した、太陽の30倍より質量の大きい星が進化の果てに自らの重力でつぶれてできるブラックホールで、これは太陽の10倍程度の質量であることから「恒星質量ブラックホール」とよばれています。もう一つは銀河の中心に存在すると考えられている、太陽の百万倍から十億倍もの質量を持つ「巨大ブラックホール」です。現在では、多くの銀河がその中心に巨大ブラックホールをもつと考えられていますが、それがどのようにしてできたのかは謎につつまれていました。けれども、「あすか」などの活躍により、太陽の百倍から千倍という、恒星質量ブラックホールと巨大ブラックホールの中間の質量を持つブラックホール(中質量ブラックホール)が存在していることが明らかになってきたのです。中質量ブラックホールは、巨大ブラックホールがどのようにしてできたのかを知る上での手がかりとしてとても注目されています。
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