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少し重たいブラックホールがいっぱい

〜太陽の30--100倍の質量のブラックホール〜

X線観測がはじまった当初から、いくつかの銀河には非常に明るい謎のX線天体があることが知られていました。その明るさは、私たちの銀河系内で見つかっている明るい恒星質量ブラックホールのさらに10倍にもなります。「ものが落ちる」ことによって輝くブラックホールの明るさには上限値があり、それはブラックホールの質量に比例します。ですから、このような非常に明るいX線天体がブラックホールだとすると、恒星質量ブラックホールの10倍、すなわち太陽の約100倍の質量のブラックホールが存在することになるのです。この仮説をどうやって検証すればよいのでしょうか。鍵は、恒星質量ブラックホールと同じようにブラックホールのまわりの降着円盤からの放射がみえるかどうかです。過去の衛星では性能不足から、謎のX線天体の正体に迫ることはできませんでしたが、X線の撮像と分光を同時に可能にした「あすか」は、この目的にうってつけです。「あすか」による12個の非常に明るい謎のX線天体の観測データを解析した結果、そのほとんどが降着円盤からの放射でみごとに説明できることがわかりました(図1)。どうやらこの宇宙には、太陽の30--100倍もの質量を持ったブラックホールが数多く存在するようです。

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図1:「あすか」による観測で得られた、渦巻銀河IC342中にある謎のX線天体のスペクトル。赤色が観測データで、青色で示した降着円盤からの放射のモデル(いろいろな場所からの放射があわさったもの)とみごとに一致しました。

「あすか」はまた、これらの明るいX線天体がいくつか際だった特徴をもつことを明らかにしました。ひとつは降着円盤の温度で、温度が最も高いいちばん内側では1千万度以上にもなります。円盤からの放射は中心天体の特徴を反映し、面白いことに天体が軽いほど温度が高くなります。1千万度という高い温度はブラックホールよりも軽い中性子星の周りの円盤に近い温度です。中心天体は重いブラックホールと考えられるのに、どうしたことでしょう。一つの説明は、中心天体が自転しているということです。『X線で探るブラックホールの素顔』で説明したように、もし中心のブラックホールが高速で自転していると、円盤はより内側までのびるので高い温度を持つことができるのです。

また、X線放射の時間変動から、物質が中心天体に落ちていく速度がふつうのブラックホール連星に比べてかなり速い、という示唆も得られています。この理由もまだ確立はしていませんが、ブラックホールの自転に関係した事柄、たとえば円盤の高い温度が引き金になっていると考えられています。さらに観測を進め、物質が降りつもっていく量やブラックホールの質量と自転を考えることで、銀河系内のブラックホール連星から銀河系外の中質量ブラックホールまで、統一的描像で説明できるのではと期待しています。

(水野恒史)
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