ブレーザーと呼ばれる天体は「ぎんが」衛星の時代から謎につつまれていました。X線で明るいものが多く、また、非常に速い時間変動を起こすことが特徴です。たとえば3億光年離れたMrk 421という天体では、「あすか」で観測した時に、わずか半日の間に倍以上の強度変動を示しました。こうした天体の多くが、10億電子ボルトとか1兆電子ボルトというような、X線光子の100万倍から10億倍のエネルギーを持つガンマ線の領域でも明るく輝いていることが、「あすか」と同時期に軌道上にあったガンマ線観測衛星「コンプトン(CGRO)」や、地上のチェレンコフ望遠鏡によって発見されました。こうした高いエネルギーの光子は、いったいどこでどのように作られるのでしょうか。
宇宙にちらばる銀河の中には、その中心部が異常に明るく、せいぜい太陽系程度の大きさの中心から、銀河全体の数百倍から数千倍ものエネルギーを放出しているものが数多く存在します。これらは活動銀河核とよばれています(『活動銀河核』参照)。活動銀河核からは数十万光年におよぶようなジェットが吹き出ていることがあります(図1)。ジェットは、銀河の中心に潜む巨大ブラックホールと密接な関係があると考えられていますが、こうしたジェットがどのようにしてでき、その中で一体何がおこっているのかはまだ明らかになってはいません。天文学の大きな課題の一つです。
図1:はくちょう座Aからのジェット(電波による観測、NRAO提供)。写真の横が約40万光年に相当します。
実は、ブレーザーが、銀河の中心から吹き出るジェットをその真正面から見ている天体であるということが、さまざまな波長の観測から徐々にわかってきました。そして、「あすか」をコンプトン衛星、あるいは地上の望遠鏡などと同時に使って観測した結果、ジェットは、電子や陽電子などの素粒子を1兆電子ボルトまで加速する「宇宙の巨大な加速器」であることがわかってきたのです。いくつかの天体では、X線と1兆電子ボルトのガンマ線がそろって明るくなったり暗くなったりする現象が見つかりました。こうした天体では、X線はジェットの中で加速された電子のうちほとんど最高のエネルギーをもった電子が磁場の中を運動することで放出されたものであること、ガンマ線は同じ最高エネルギーの電子が周囲の光子にエネルギーを与えた結果生じたものであることがわかりました。また、どの程度のエネルギーにまで加速されるかについては天体によって異なり、暗い天体ほど高いエネルギーまで粒子が加速され、明るい天体では効率よく粒子が加速されないということもわかりました。このような違いはジェットを取り巻く環境によって決まっているようです。
図2はMrk 421を、普通の観測時間の10倍を費やして、一週間もの間、観測した時の変動の様子です。毎日、同じように激しく変動している様子がはじめて発見されました。こうした時間変動は、X線やガンマ線はジェットの根本(中心のブラックホールから0.1光年程度のところ)から出ていること、またブラックホールからは、光の速度の99%以上の速さでプラズマの塊が間欠的に吹き出ていることを示唆します。吹き出たプラズマの速度はわずかにゆらいでいて、プラズマの塊が0.01光年くらいの大きさに広がったところで速い塊が先を行く遅い塊に衝突し、そのたびにX線やガンマ線で明るく輝くと考えると、いろいろな現象をよく説明できることがわかりました。
図2:1998年に、「あすか」を中心にして、国際的なキャンペーンを行ったときに観測した、ブレーザー天体Mrk 421の一週間にわたる光度曲線。毎日のように激しく変動している様子がわかります。
ブレーザーを「あすか」で観測することで、これまで知られていなかった「宇宙の巨大な加速器=ジェット」のことがたくさん明らかになりました。それは、「あすか」がそれまでの衛星に比べて、大きな面積をもち、とても感度がよかったからです。同時に、X線とガンマ線など他の波長と共同で観測を行うことではじめてわかったことも多くあります。これは、激しく躍動する宇宙で何が起こっているかを探り、それを物理的に説明するためには、できるだけ幅の広い観測を行うことの大切さを示しています。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |