ガンマ線バーストと呼ばれる天体現象を知っていますか?ガンマ線バーストとは、20秒程度の短い時間、エネルギーが数百キロ電子ボルトの電磁波(ガンマ線)が宇宙から降り注いでくる現象です(図1)。現象があまりにも短時間で、しかもいつどの方向で発生するのかわからないので、その謎を解くことができませんでした。1960年代にはもう知られていたのに、いまだにガンマ線バーストを起こしている天体はわからないままです。天文学上の七不思議のひとつですね。でも「あすか」やイタリアのX線衛星「ベッポサックス」の活躍によって、かなりのことがわかってきました。
図1:コンプトンガンマ線衛星で観測された典型的なガンマ線バーストの強度(光子数)変化。ガンマ線バーストは突然発生し、20秒程度の短い時間で終わります。バースト中は、ガンマ線の強度がはげしく変動します。(CGRO提供)
まず画期的であったことは、1997年になって、このガンマ線バーストに「X線残光」と呼ばれる現象が発見されたことです。X線残光では、徐々に弱くなりながらも1週間近く観測可能な残光が残るのです(図2)。ここで残光と呼びますが、X線で始まり、紫外線、可視光、赤外線、電波と移行するのが一般的です。残光により長い時間観測が可能になると、正確な発生位置がわかります。位置がわかれば、いろいろな調査ができるようになり、この4年間に確認された残光から発生源までの距離が非常に遠いことがわかってきました。私たちが知っている宇宙では「宇宙マイクロ波背景放射(いわゆる3K放射)」が一番遠い。その次に遠いのです。このように遠い距離は、天文学の世界では赤方偏移zで表現しますが、間違いなくz〜10程度(宇宙年齢の96%、およそ130億光年に相当)から来ています。今までに知られている一番遠い銀河がz〜5程度(宇宙年齢の91%、およそ120億光年に相当)ですから、いかに遠いかがわかります。このことから源での発生エネルギーは巨大で、宇宙で最大の爆発現象と思われます。比較的近くで発生したガンマ線バーストをよく調べてみると、そこには銀河がみられます。ガンマ線バーストは遠方の銀河の中で稀に起きる現象なのでしょう。しかしどのような天体が、こんなに遠方でも明るく見える現象を起こしているのかはわかっていません。もっとたくさんのガンマ線バーストの距離を決めることや、ガンマ線バーストの発生環境を調べることが重要で、このような観測に「あすか」が活躍をしました。
図2:減光の様子を1週間観測した結果です。ここには8例のガンマ線バーストの減光の様子が両対数で描かれています。両対数で直線ですから、時間のべき乗で減衰します。
図3はガンマ線バーストのX線残光を「あすか」で観測したものです。ガンマ線バーストの発生位置に、「あすか」が数日後でも観測ができるようなX線残光が現れて減衰していきます。「あすか」はこのX線残光スペクトルを作ることに成功し、そこにX線の輝線を発見しました(図4)。それを鉄の元素からと考えるとz=0.95の距離(宇宙年齢の56%、75億光年に相当)であることがわかりました。このように輝線の同定に成功すると、距離が正確に決められます。また鉄の輝線が出せるような環境がガンマ線バーストの発生源にあることもわかります。発生天体を考える上で重要な発見です。X線で位置が決まると、地上の大型望遠鏡でも精密な観測が可能になります。そして多くの場合、遠い銀河が存在し、ガンマ線バーストは銀河の中で起きる現象であることがわかります(図5)。
しかしそれを起こした天体の種類はまったくわかっていません。原因天体がわからない、しかも宇宙で最大の爆発現象がいまだにあるなんて楽しいですね。
図3:「あすか」が観測したガンマ線バーストのX線残光。右は発生後約1日後、左は2日後です。このようにX線で減光していきます。
図4:「あすか」が観測に成功したガンマ線バーストのX線スペクトル。5キロ電子ボルト付近に奇妙なこぶがあります。これが鉄の輝線です。鉄と考えると距離を出すことができ、z=0.95と大変に遠いことがわかります。
図5 ガンマ線バーストの発生位置をハッブル望遠鏡が見た像。そこには淡い光を放つ銀河が見られます。明るい点がガンマ線バーストの残光で、左が発生直後、右は発生1ヶ月後です。(Hubble提供)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |