2014年12月10日
X線天文衛星「すざく」によるX線観測の第10期公募 (AO-10) のご案内
すざく プロジェクトマネージャー 満田和久
(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)
すざく プロジェクト副マネージャー 高橋忠幸
(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)
すざく プロジェクトサイエンティスト 國枝秀世
(名古屋大学)
<はじめに>
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所はX線天文衛星「すざく」を2005年7月10日に打ち上げ、X線CCDカメラ(XIS)と硬X線検出器(HXD)による観測を順調に進めて来ました。国内外の研究者により、これまでに多数の天体観測が行われ、「すざく」が持つ高感度広帯域の分光性能を活かした数々の研究成果が発表されています。2006年4月からは、世界中からの観測提案に基づく公募観測を実施して来ました。しかしながらこの間、2011年後半から、太陽電池パドルの急激な発電能力の低下に見舞われ、いったんは観測能力を回復しましたが、今年に入ってから、蓄電池の経年劣化のために電気容量が大きく低下し、現時点ではXISとHXDを同時に稼働させることがほとんどできなくなっています。
プロジェクトではその後も「すざく」衛星の電力を注意深くモニターしてきました。その結果、使用できる観測機器に制限はあるものの、使用可能電力は今年7月末以降は目立って低下してないことから、第10期一般公募観測 (AO-10) の観測提案公募を実施することとしました。ただし、AO-10の期間中に更なる電力事情の悪化が起きる可能性は否定できません。各位におかれましては、以下の点をお含みいただいた上、積極的に観測提案をして下さいますようお願いいたします。
- AO-10の観測期間は5月1日からの半年(10月31日まで)とします。
- 公募する観測は、X線CCDカメラ(XIS)による観測とします。「すざく」が日照率の高い軌道にある時には硬X線検出器(HXD)による観測を同時に行いますが、そうした期間は極めて限られるため、HXDによる観測が必須の提案は受け付けません。
- プロジェクト側では、AO-10の観測期間終了(2015年10月31日)まで「すざく」の観測を継続するため最大限の努力を払いますが、不幸にして電力事情の悪化が深刻になった場合には、現在3台稼働しているXISを1台にまで減らしてAO観測を継続する予定です(その場合には、個々の観測の観測時間を3倍に延ばすこととします)。
- Key Project観測の公募は実施しません。
なお、AO-10でも、AO-6より実施しているFermiとの連携プログラム (Suzaku-Fermi joint program) を継続する予定です。Fermiとの連携プログラムへの応募はFermi Guest Investigator program より受け付けます。詳しくはFermiのweb pageを参照してください。AO-5から実施しているMAXIによるToO観測はAO-10でも実施します。AO-4より実施してきたChandra衛星との連携プログラム (Joint Chandra/Suzaku proposals) は募集しませんのでご注意下さい。
また,2015年7月以降も観測が続けられるかどうかは、衛星の状態だけでなく、宇宙科学研究所で実施される「すざく」の運用延長審査の結果にも依存することを付記いたします。
<すざく衛星>
「すざく」衛星には、高エネルギー側10 keVまでのX線を高効率で集光結像するX線望遠鏡(XRT)が搭載され、その焦点面にはX線CCDカメラ(XIS)が置かれています。XISは、広がった天体の撮像分光観測に特に威力を発揮します。AO-2以降は、電荷注入法により、エネルギー分解能の劣化を抑えています。「すざく」の観測機器の詳細を記述した技術資料 (Technical Description document)、試験観測期間や、これまでの公募観測期間に観測されたの天体リストを、「すざく」衛星のホームページ
に掲載しています。
10-600 keVの波長帯をカバーする硬X線検出器(HXD)は、衛星の日照率が高く電力に余裕のある場合にだけ使用できる可能性がありますが、その時期を正確に予測することが難しいことと、期間が極めて限られることから、AO-10ではHXDのデータを必須とするような観測提案はお受けできません。
<衛星運用計画>
2006年4月以降、「すざく」衛星の通常観測時間は、すべて公募観測に充てられており、AO-10でも同様です。ここで通常観測時間とは、衛星メンテナンス等のために必要な以下の(a)〜(c)の時間を除いた残りの時間(全体の87%)のことを指します。
(a)Observatory Time(3%):姿勢制御、衛星の保守等に充てられる時間。
(b)Calibration Time(5%):搭載機器の較正用の観測に充てられる時間。
(c)Director’s Discretionary Time(5%):全く予想していない突発的な天体現象、ガンマ線バースト等、「すざく」で観測すべき現象の観測に充てられる時間。AO-5から、この時間枠を使い、MAXI観測運営委員会からの提案に基づく共同観測(MAXI ToO観測)を実施しています。
通常観測時間は、1日の実観測時間を38 ksecとして半年間で5951 ksec (= 38 ksec × 180d × 0.87)です。AO-10ではこれを以下のように配分します。
(1)日本観測時間 2975ksec(ESA 476 ksec、日本その他2499 ksec)
(2)米国観測時間 2232ksec
(3)日米共同観測時間 744 ksec
AO-1以来、(1)の日本側観測時間から、通常観測時間の8%にあたる時間(476 ksec)を日欧共同観測時間としてESAからの観測提案に割り当てておりますので、日本側観測時間からこの分を差し引いた2499 ksecが、公募対象となる純然たる日本の観測時間です。日米欧以外の外国の研究者は日本時間の枠に提案して頂きます。その審査は日本国内の提案とまとめて日本側で行い、採択する合計の観測時間はESA枠を越えない範囲とします。(3)日米共同観測時間は、同じターゲットが日米双方で採択され、それぞれのPIが共同研究に同意した観測提案が割り当てられる時間です(観測提案の書式に、そのような共同研究を許容するかどうかを選ぶチェックボックスがあります)。Fermiとの連携プログラムに基づく観測は、提案者の所属機関に応じ、(1)〜(3)に含めてカウントされます。
<観測提案の諸条件>
(1) これまでに「すざく」で採択した天体のリストは以下のURLに示されています。
ここに掲載された優先順位A、Bのターゲットは観測されることが保障されていますので、それらを再提案されても、特別に新しい要素(全く別の観測モード、広がった天体の別の場所、変動する天体の別の位相など)がない場合には、採択される可能性は低くなります。ただし、電源系の経年劣化のため、「すざく」のAOは今回のAO-10で最後になる可能性があります。そこでAO-9と同様、AO-10でも、過去に「すざく」で実施された観測の再提案ではあるが、今回追加観測を実施することで、これまでの観測を活かしたシリーズの完結編となるような提案も歓迎します。具体的には、ある特定の天体での統計精度の向上、マッピング観測で欠けている天空領域の補完、あるカテゴリの天体のサンプル数を増やす観測などです。また、2015年度には次世代のX線天文衛星ASTRO-Hが打ち上がる予定です。「すざく」の総まとめと同時に、ASTRO-Hにも繋がるような観測提案を歓迎します。
一方、AO-9で優先順位CおよびToO(Target of Opportunity observation)で、まだ観測されていない天体については誰でも再提案できます。提案しようとしている天体が既に観測されているかどうかは、
で調べることができます。但し、AO-10の公募締切後にAO-9(2015年4月30日まで継続)で観測され、観測時間が提案の70%以上に達した天体の観測は完了したとみなしますので、例えAO-10で採択されても観測は行われません。70%に満たない場合には、同じ提案者以外の新提案が採択されれば、AO-10で独立に新提案に沿って観測を実施します。同じ提案者ならば、追加の観測を行います。
(2) 提案する観測時間の長さについては、目的とするサイエンスに必要な統計を考慮して、十分な理由付けを提案書に明記して下さい。1指向観測あたりの観測時間は、衛星の運用の効率から考えて 10 ksec以上とします。観測時間の上限はありませんが、総観測時間300ks以上の提案によって取得された観測データは、観測が終了し初期データ処理を終えたあと、即時一般に公開されます。PIによるデータの占有期間は設けませんのでご注意下さい。一般論として、観測時間を長くすると、その分だけサイエンスの重要度が要求されることになります。
(3) 同一天体の連続観測については、星姿勢系への月の漏れ込みや、他のTime Critical観測(以下の(5)項を参照)との干渉のため、保障できる連続積分時間は100ksまでです。それ以上の連続観測は、運用チームの努力目標となります。同一天体の長時間観測を提案される場合には、途中で観測が切れても科学的価値が失われないように十分配慮して下さい。
(4) 突発的現象を予想できる場合には、本一般観測公募にToO観測(Target of Opportunity observation)として提案することができます(Reserved ToO観測)。この場合、ターゲット名など通常の提案を行う際の情報に加えて、Reserved ToO観測を発動する条件(トリガー条件)、その突発現象がAO-10の期間中に起こる確率、現象の継続時間を提案に記入して下さい(応募要項5-(2)を参照)。ターゲット名を指定しないReserved ToO観測提案(例えば「近傍で発生する超新星爆発の観測」、「次に発生するNovaの観測」など)は受け付けません。ターゲットリストに挙げることができる天体数は5個までとします。また、トリガー条件を満たした場合に、これらの天体を何個まで観測したいのか(最大トリガー数)を提出書類(3)のScientific Justification中に明記して下さい。その際、データ占有権についての規定((2)項)にご注意下さい。たとえば一天体あたり100 ksecの観測時間で5天体を提案する場合、最大トリガー数が2以下であれば、PIに1年間のデータ占有権が発生しますが、最大トリガー数が3以上だと、総観測時間が300ks以上となりますので、PIにはデータの占有権は発生せず、初期データ処理が終了後、データは即時一般に公開されます。
(5) 天体現象の位相や、同時観測計画に合わせて、観測の時期を指定することもできます(Time Critical observations:TC)。この場合、運用チームは運用制限の範囲内で、その実現に最大限の努力します。
TCには、運用チーム側で長期観測計画を策定する際に、太陽角条件以外の制限を考慮する必要のあるものが全て含まれます。たとえば望遠鏡光軸周りのRoll角を指定する場合、時間変動する天体を複数回に亘って観測する場合、目的天体の他に時間的に接近したバックグラウンド観測を必要とする場合がすべてTCに属します。これらの場合は申請書のTCとある欄に印をつけて下さい。同時観測については、提案時に計画が具体化していなくても、採択後に同時観測を組織するつもりの場合には、TC観測として提案して下さい。「すざく」の観測スケジュールは、ToO観測などの割り込みによって、観測実施直前であっても変更されることがあります。このために他波長での同時観測が「すざく」に追随できなくなったとしても、TC欄に印がない場合には、運用チームとしては「すざく」の観測スケジュールの調整には応じかねます。
(6) 全く予想していない天体での突発現象、ガンマ線バーストや、「すざく」で観測すべき現象が起きた時には、DDTを用いてToO観測する用意があります(Realtime ToO観測)。Realtime ToO観測の提案は本一般観測公募の締め切り後も随時受け付けます。その際、提案者は、本当に観測を行う価値があるかどうかを「すざく」プロジェクトチームが判断するため、
にあるフォームを埋めて、速やかに「すざく」マネージャーにメールで送信して下さい。アドレスは
suzaku_managers 'at' astro.isas.jaxa.jp
です。観測が行われた場合、データはすぐに公開します。なお、ガンマ線バーストについては、AO-6までは「すざく」科学ワーキンググループが各種ネットワークからの情報に基づき観測を計画することとしていましたが、AO-7以降、世界中のすべての研究者から受け付けています。
(7) XISについては、通常の撮像モード(ノーマルモード)に加えて、P-sum/timingモードでの観測を受け付けます。このモードでは、1次元のイメージ情報しか得られない代わりに、光子のパイルアップが起きにくく、また高い時間分解能(最高7.8msec)を得ることができます。ただし、XIS3でしか使用できず、下記(8)にあるとおり、HXDノミナル位置の観測でも使用できません。また、SCI(Spaced-row Charge Injection)が使えずCTI補正もできないため、軌道上での放射線損傷によるエネルギー分解能の劣化が補正されず、しかもエネルギーレスポンスの較正精度を上げることが難しいなど、様々な制約があります。詳細は、技術資料を参照して下さい。
(8) 目標天体の検出器上での観測位置として、AO-6まではXISノミナル位置、HXDノミナル位置の2つをサポートしていましたが、AO-7以降、このうちのHXDノミナル位置でのサポートは廃止されています。具体的には、AO-6までHXDチームが供給してきたHXDの標準応答関数が供給されなくなります。またXISについては、標準と異なる読み出しクロック(P-sum/timing modeやwindow/burst option用のクロック)が使用できなくなります。ただし、提案者の判断により、XISの標準の読み出しクロックを用いてHXDノミナル位置で観測をしていただくことに問題はありません。この場合、応答関数は、XIS、HXDの応答関数作成ソフトを使用して、観測提案者が自ら作成していただくことになります。
AO-10ではHXDによる観測は保障されませんので、特に理由がない限り、XISノミナル位置での観測を推奨します。
<提案採択の手順とスケジュール>
(1) 日本側の公募の締切は2015年2月3日(火)正午(日本時間)です。これにはESA加盟国および米国を除く諸外国からの提案も含みます。その後、すみやかに日本国内のレフェリーによる査読が行われます。レフェリーにはX線天文学関係者だけでなく関連分野の研究者も含まれます。レフェリーによる評価に基づき、2015年3月下旬の観測運営委員会において日本時間の採択提案を決定します。この時、欧州からの提案も取り込みます。2015年4月中旬に日米調整委員会を開き、採択提案を決めます。2015年4月末までに採択提案の公表を行います。
(2) 採択提案は優先順位によりA, B, Cの3つのカテゴリーに分けられます。優先順位Aのターゲットは原則としてAO-10の期間内(2015年5月1日から半年間)に優先的に観測します。ただし、電力事情により「すざく」の観測継続が困難になった場合には、その時点でAO-10の観測は終了となります。優先順位BのターゲットはAO-10の期間内に観測することを目指します。優先順位Aの天体については、採択された観測時間の90%、優先順位Bの天体については70%に相当する時間の観測が行われた時点で観測が終了したと見なされます。優先順位Cのターゲットは、観測時間に空きができたら、拾い上げて観測される可能性があります。通常観測時間(すざく全体で5951 ksec)をTとすると、優先順位Aには、レフェリーによる評点が上位のものから積分時間が0.6T(= 3571 ksec)に達するまでの提案が採択されます。Bには、そこから積分時間が0.3Tに達するまで、Cには、さらにその下の0.5Tまでが採択されます。つまり全体としてCを0.4T分だけ余分に採択しますが、これは、別枠になっている13%の時間に余裕ができたときに、優先順位Cの天体の観測で補うためです。
(3) Reserved ToO観測、TC観測は、観測スケジュールを立案する上での制限となるため、重要な科学的意義をもつ観測提案に限り、全体の観測時間の15%程度以下を目安に採択する予定です。ただし、2015年4月中旬の日米調整委員会の時点での電力事情の見通しにより、この割合は引き下げられる可能性があります。
<観測データの占有権>
採択された提案に基づく観測データの場合、提案者にはそのデータを1年間占有する権利が与えられます。占有期間の開始は、提案者がデータを解析可能になった日からとします。Realtime ToO観測、総観測時間が300ks以上の提案によって取得された観測のデータはただちに公開されます。