2008年9月8日
X線天文衛星「すざく」によるX線観測の第4期公募のご案内
(AO-4)
すざく プロジェクトマネージャー 満田和久
(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部)
すざく プロジェクト副マネージャー 高橋忠幸
(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部)
すざく プロジェクトサイエンティスト 國枝秀世
(名古屋大学)
<はじめに>
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部ではX線天文衛星「すざく」を2005年に打ち上げ、X線CCDカメラと硬X線検出器による観測を順調に進めて来ました。国内外の研究者により、これまでに多数の天体観測が行われ、「すざく」が持つ高感度広帯域分光性能を活かした数々の研究成果が発表されています。2006年4月からは、世界中からの観測提案に基づく公募観測を実施して来ました。これに引き続き、2009年4月から1年間実施する第4期公募観測(AO-4)への観測提案を下記の要領で公募致します。
AO-4での新しい点は、
(1) AO-3で導入したLong Programを発展的に解消して、より広範な提案を可能とするKey Projectを新設し、これに「すざく」全体で 2000 ksecを充て、そのための公募をこの一般公募と並行して行うこと。
(2)一般公募観測の観測時間の上限(AO-3までは300 ksec)を取り払うこと。
の二点です。Key Project観測も、観測時間が300 ksec以上の一般公募観測も、得られたデータは即時公開となりますが、長時間の観測で得られる重要なサイエンスは「すざく」プロジェクト全体にとっての貴重な共有財産となります。データ占有権にとらわれることなく、長い時間を使うことで「すざく」の特長を充分に活かすような提案を積極的にお寄せ下さいますようお願いいたします。
<すざく衛星>
「すざく」衛星には、高エネルギー側10 keVまでのX線を高効率で集光結像するX線望遠鏡(XRT)が搭載され、その焦点面にはX線CCDカメラ(XIS)が置かれています。XISは、広がった天体の撮像分光観測に特に威力を発揮します。AO-2以降は、電荷注入法により、エネルギー分解能の劣化を抑えています。硬X線検出器(HXD)は、600 keVまでの広い波長域で、これまでにない高い感度を持ちます。XISとHXDを合わせた0.2-600 keVでの広帯域観測は、「すざく」衛星の大きな特長と言えます。機器の詳細を記述した技術資料 (Technical Description document)や、試験観測期間中に既に観測された天体リスト、これまでの公募観測の天体リストを、「すざく」衛星のホームページ
に掲載しています。
http://www.astro.isas.jaxa.jp/suzaku/
なお、機器の詳細については最新の情報を取り入れ、10月初旬に改訂する予定です。
<衛星運用計画>
2006年4月以降、「すざく」衛星の通常観測時間は、すべて公募観測に充てられており、AO-4でも同様です。ここで通常観測時間とは、衛星メンテナンス等のために必要な以下の(1)〜(3)の時間を除いた残りの時間(全体の87%)のことを指します。
(1)Observatory Time(3%):姿勢制御、衛星の保守等に充てられる時間。
(2)Calibration Time(5%):搭載機器の較正用の観測に充てられる時間。
(3)Director's Discretionary Time(5%):全く予想していない天体での突発現象、ガンマ線バースト等、「すざく」で観測すべき現象の観測に充てられる時間。
通常観測時間は、1日の実観測時間を38 ksecとして11902 ksec (= 38 ksec × 360d × 0.87)です。AO-4ではこれを以下のように配分します。
(1)日本観測時間 5451 ksec(ESA 909 ksec、日本その他4542 ksec)
(2)米国観測時間 3963 ksec
(3)日米共同観測時間 488 ksec
(4)Key Project時間 2000 ksec
AO-4では、AO-3までの日・米の観測時間枠からそれぞれ500 ksec、日米共同研究に基づく観測のために設けられている日米共同観測時間枠から1000 ksecの合わせて2000 ksecを、今回新たに設けたKey Projectに割当て、一般公募とは別枠で募集を行います。またAO-1以来、日本側観測時間から、そのほぼ1/6にあたる時間を日欧共同観測時間としてESAからの観測提案に割り当てておりますので、(1)の日本側観測時間からこの分(AO-4では909 ksec)を差し引いた4542 ksecが、公募対象となる純然たる日本の観測時間です。なお、日米欧以外の外国の研究者も日本時間の枠に提案して頂きます。但し、審査は日本国内の提案とまとめて日本側で行い、採択する合計の観測時間はESA枠を越えない範囲とします。日米共同観測時間は、同じターゲットが日米双方で採択され、それぞれのPIが共同研究に同意した観測提案が割り当てられる時間です(観測提案の書式に、そのような共同研究を許容するかどうかを選ぶチェックボックスがあります)。
<観測提案の諸条件>
(1) これまでに「すざく」で採択した天体のリストは以下のURLに示されています。
http://www.astro.isas.jaxa.jp/suzaku/accept/
ここに掲載された優先順位A、Bのターゲットは観測されることが保障されていますので、それらを再提案されても、特別に新しい要素(全く別の観測モード、広がった天体の別の場所、変動する天体の別の位相など)がなければ、採択される可能性は低くなります。一方、AO-3で優先順位CおよびToO(Target of Opportunity observation)で、まだ観測されていない天体については誰でも再提案できます。観測されているかどうかは
http://www.astro.isas.jaxa.jp/suzaku/log/
で調べることができます。但し、AO-4の公募締切後にAO-3(2008年3月まで継続)で観測され、観測時間が提案の70%以上に達した天体の観測は完了したとみなしますので、例えAO-4で採択されても観測は行われません。70%に満たない場合には、同じ提案者以外の新提案が採択されれば、AO-4で独立に新提案に沿って観測を実施します。同じ提案者ならば、追加の観測を行います。
(2) 提案する観測時間の長さについては、目的とするサイエンスに必要な統計を考慮して、十分な理由付けを提案書に明記して下さい。ただし、1指向観測あたりの最短の観測時間は、衛星の運用の効率から考えて 10 ksec以上とします。一方、観測時間の上限は特に設けませんが、観測時間を長くすると、その分だけサイエンスの重要度が要求されることになります。採択された際の総観測時間が300 ksec以上の提案については、優先順位A、B、Cの如何に拘わらず、そのデータは観測終了後すみやかに公開することとします(提案者のデータ占有期間を設けません)。
(3) AO-4では、前回導入したLong Program (L) を改訂し、Key Projectを新しく定義し、別に審査することにしました。Key Projectの詳細については別途Key Project公募案内を参照して下さい。Key Projectでは観測時間の上限はありません。これにより、同一天体の長期観測、広い天空領域のマッピング、AO期間の枠を超えたモニター観測など、「すざく」の特長を最大限に引き出す様々なプロジェクトが可能になると期待します。Key projectの提案は一般公募と同じ締め切りで受付け、日米で別々の第一段審査をした上、日米合同のreviewerの前での提案発表を経て選ぶことになります。こうした貴重な観測データをなるべく早く研究者間で共有するため、Key projectの観測データは即時公開になります。
(4) 同一の提案を一般公募枠とKey Project枠に重複して提出することは認めません。2つの観測提案の共同研究者リストに1人でも重複があった場合には、どちらの提案も審査に付することなく却下されますのでご注意下さい。
(5) 突発的現象を予想できる場合には、ToO観測(Target of Opportunity observation)として提案することができます(Reserved ToO観測)。この場合、ターゲット名など通常の提案を行う際の情報に加えて、Reserved ToO観測を発動する条件(トリガー条件)、その突発現象がAO-4の期間中に起こる確率、現象の継続時間を提案に記入して下さい。ターゲット名を指定しないReserved ToO観測提案(例えば「近傍で発生する超新星爆発の観測」、「次に発生するNovaの観測」など)は受け付けません。ターゲットリストに挙げることができる天体数は5個までとします。また、トリガー条件を満たした場合に、これらの天体を何個まで観測したいのか(最大トリガー数)を提出書類(3)のScientific Justification中に明記して下さい。一天体あたり100 ksecの観測時間で5天体を提案した場合、最大トリガー数が2個であれば、観測提案者にデータ占有期間が発生しますが、3個であれば総採択時間が300 ksecとなるので、最初の1天体目の観測が済み次第、データは公開されることになります((2)項参照)。
(6) 天体現象の位相や、同時観測計画に合わせて、観測の時期を指定することもできます(Time Critical observations:TC)。この場合、運用チームは運用の許す範囲で、その実現に努力します。また、ある期間をおいてモニターする場合、望遠鏡光軸周りのRoll角の指定のある場合もこの部類に属します。これらの場合は申請書のTCとある欄に印を記入して下さい。同時観測については、提案時に計画が具体化していなくても、採択後に同時観測を組織するつもりの場合には、TC観測として提案して下さい。「すざく」のスケジュールに他の観測装置のスケジュールを合わせてもらう場合でも、TCの欄に印がない場合には「すざく」のスケジュールは観測時まで確約できません。
(7) 全く予想していない天体での突発現象、ガンマ線バーストや、「すざく」で観測すべき現象が起きた時には、DDTを用いてToO観測する用意があります(Realtime ToO観測)。Realtime ToO観測の提案は随時受け付けますが、本当に観測を行う価値があるかどうかを判断するため、提案者は
http://www.astro.isas.jaxa.jp/suzaku/planning/gtoo/
にあるフォームを埋めて、速やかに「すざく」マネージャーにメールで送信して下さい。アドレスは

です。観測が行われた場合、データはすぐに公開します。特にガンマ線バーストについては、「すざく」科学ワーキンググループが、各種ネットワークからの情報に基づき、観測を計画する予定です。
<提案採択の手順とスケジュール>
(1) 今後のスケジュールは、2008年12月5日正午(日本時間)に公募を締切り(欧米を除く諸外国の提案も含む)、日本国内のレフェリーによる査読が行われます。レフェリーにはX線天文学関係者だけでなく関連分野の研究者も含まれます。評価の後、2009年2月の観測運営委員会において日本時間の採択提案を決定します。この時、欧州ESAからの提案も取り込みます。2009年3月上旬に日米調整委員会を開き、Key Projectと一般公募提案の採択提案を決めます。その後、採択提案の公表を行います。
(2) 採択提案は優先順位によりA, B, Cの3つのカテゴリーに分けられます。優先順位Aのターゲットは予定期間(2009年4月から1年間)に優先的に観測します。優先順位Bのターゲットは予定期間に観測することを目指しますが、場合によっては次期に持ち越される可能性があります。優先順位Aの天体は、採択された観測時間の90%、優先順位Bの天体は70%に相当する時間の観測が行われた時点で観測が終了したと見なされます。優先順位Cのターゲットは、観測時間に空きができたら、拾い上げて観測される可能性があります。通常観測時間(すざく全体で11902 ksec)をTとすると、優先順位Aには、Key Projectとあわせて、レフェリーによる評点が上位のものから積分時間が0.6T(= 7141 ksec)に達するまでの提案が採択されます(Key Projectは最大2000 ksec)。Bには、そこから積分時間が0.3Tに達するまで、Cにはさらにその下の0.5Tまでが採択されます。つまり全体として1.4T分を採択しますが、これは、別枠になっている13%の時間に余裕ができたときに、優先順位Cの天体の観測で補うためです。
(3) Reserved ToO観測、TC観測は、観測スケジュールを立案する上での制限となるため、重要な科学的意義をもつ観測提案に限り、全体の観測時間の15%程度以下を目安に採択することとします。
<観測データの占有権>
一般公募で採択された提案に基づく観測データの場合、提案者にはそのデータを1年間占有する権利が与えられます。占有期間の開始は、提案者がデータを解析可能になった日からとします。一般公募による観測で採択時間が300 ksecを超えるような観測、Key Projectによる観測、Realtime ToO観測のデータはただちに公開されます。